2015年08月

「聖剣使いの禁呪詠唱」第7話(リテイク版)


面白みのあるPV。

 1話・4話・7話で三強である。7話は特に音まわりが冴えていた。初めの教室での自己紹介シーン。静乃がレーシャに転入の目的を問う。「調査、勧誘、誘拐、それとも暗殺?」物騒な言葉を並べてシリアスモード。レーシャ「私の目的は、灰村諸葉と交際することだ」静乃「えぇ?」この「えぇ?」が良い。流れがつまずく。すかさずサツキが「ハァ~~~?」で割り込んでくる。曲はもちろんサツキのギャグテーマ(1回目)。一気に空気が変わる。レーシャに褒められて調子に乗るサツキ。たまらず静乃が「オッホン」で空気を真面目モードに戻す。サツキのテーマ(1)終了。まず音とキャラの空気(静乃:シリアス、サツキ:ギャグ)を整える。

 レーシャ「あなたの兄を私にください、お願いします」サツキ「これはこれはご丁寧に……って、そういう問題じゃないのよ~バカ!」手を払う動きつき、ノリツッコミの勢いが良い。この勢いで、音は再びサツキのテーマ(2)に。そこに静乃が横から入ってきてさらにツッコミ「何をやっているのよあなたは」、曲(2)が終わり、今度は静乃のターン。静乃「エレーナさん、あなたは諸葉のどこを好きになったのかしら」核心をつく問い! レーシャは「一目惚れだ」、このやり取りにサツキが介入! 「そんなの全然答えになってないわよ~!」またサツキのテーマ(3)スタート! 見た目も(><)でギャグの顔、画面と音の両面からなんとしてもギャグに持って行こうとする! 静乃はサツキの口と顔を塞いで空気を変えさせまいとする! だが音楽は止まらない! レーシャ「そういうあなたは、灰村諸葉のどこが好きなのだ?」、静乃「全てよ」、これにレーシャ「それも答えになっていないと思うが」のツッコミが入り、ギャグ成立。静乃とレーシャのやり取りもギャグになってしまった。音とキャラを一致させてからずらす(あの音楽の中で静乃に喋らせる)ことで、シリアスとギャグを行き来する面白さ。ハーレム設定の根拠を問うとギャグになってしまう、ということを露悪的に誇張しているあたりも良い。

 練習のシーンと下校のシーンの繋ぎも、いわゆるエロシーン的な音楽で繋ぐことで、一応シリアスなお話(暗殺のための接近)を、アホくさいハーレムアニメに滑らかに移行させている。副長の登場はあの音楽を呼びこむためか。CM挟んでBパート、同じ下校場面の回想は、今度は穏やかな音楽。ハーレムアニメの男の取り合いとはいえ、みんな一途な感じがあってよいではないか、というような気分になった直後に、レーシャのネコミミギャグ。緩急自在! ギャグの空気になれば当然サツキ、電話をかけてまで介入してくる執念、電話ラップは竹達彩奈の匠の技。レーシャとのデートシーンは大げさなボーカル付きのテーマ。「なんて剛毅……」のロシア語の不意打ち、日本語でも言わんぞ的な語彙が二重におかしい。デートは静乃とアンジェラの電話と並行するようになり、イギリス本部長との対決エピソードの回想から流れ始める不穏な音楽がデートを侵食していく。もう悲劇的な展開は約束されている。そろそろ戦闘か? と思ったら、今度は1分間にわたるロシア語会話である(声:川畑えるきん)。もう笑うしかない。

 最後の戦闘も見どころ。静乃とレーシャ、いよいよ本当にシリアスムードに。レーシャの正体と戦闘の決意を語る静乃、雰囲気にふさわしくメインテーマの声が聞こえる。ここから音楽と戦闘の展開のタイミングががなりしっかりしている。静乃の初弾、二発目、ドラゴン登場で音楽が展開し、順当なアツさを感じる。追い打ちをかけるべく綴る静乃、予備動作付きで気合十分。2回目のボーカルが入り、上からふっ飛ばされたレーシャが降ってくる。ここで倒れたレーシャの視点で綴り続ける静乃の姿が見えるのが良い。まずダメージ表現でピンボケしていて呪文が強そうに見える。書いた文字が自動改行されていくのも面白い。そしてぶつぶつ呟きながら高速で綴り続ける静乃が怖い。「綴る!」は、綴られる側から見たら、こんなにも怖ろしいことなのだ(ドラゴンを傍らに綴る静乃は今回のベストショットである)。綴る動きが作る時間は、攻撃の「溜め」になると同時に、レーシャにロシア語で語る暇を与えている。戦闘中のおしゃべりが間抜けなことはよくあるが、相手が綴っているのだからその時間がある。「綴る!」の設定はつくづく映像と相性が良い。「私がここで死ねば、弟の未来まで閉ざされてしまう!」魔剣を出したレーシャの反撃! ここもタイミングはばっちり。静乃は「果断なる意志を!」で応戦、しかし綴る動きはもう映されないし、呪文の短さがかえって劣勢を感じさせる。振り向きざまの「ライトニング!」もカッコイイが、魔剣を出したレーシャは一行の呪文で倒せる相手ではない。戦闘開始からここまで1曲で繋いだ。 

 今回も、リテイク版は放送版からいろいろと修正が入っている。が、諸葉がレーシャに「イギリス本部長に似ている」と言われて立ち上がる動きの中割の枚数が増えていたのは残念だった。直後に、電話中の静乃がゆっくりと立ち上がる動きがある。ここは放送版でもわざとらしいほどゆっくりしなやかに立ち上がるように表現されていて、諸葉の中割のない立ち上がり方と対照的で、いいな、と思っていたところだった。前のほうがよかった。

 音響監督は稲垣監督の兼任。空気の違うシーンを音楽で繋いで、シーンと音のノリをズラしておかしみを出したり、戦闘シーンでは1曲長回しでアツく展開させたり。8話のコンドラート戦も、展開のある曲を長く聞かせて印象的なところ(4話の漆原邸のシーンと同じ曲か。早い展開が一発逆転のシーンによく合う)。「空戦魔導士候補生の教官」1話の出会い頭のスケベシーンでも効果的だった。


Twitterからの追記
最後の戦闘シーンについてもう少し。前半、レーシャは静乃に苦戦している。レーシャが氷にふっとばされたあと、静乃が綴り始め、次はもっと強い攻撃が来そうなことがわかる。ここでレーシャは初めて魔剣を使うことを決断する。つまり、静乃の綴りがレーシャの魔剣を呼び出している。さらに、レーシャの魔剣は「吸収」の武器だから、相手に攻撃させないと有効に機能しない。というわけで、魔剣を出すことと、その剣で攻撃することの二重の意味で、レーシャには静乃の綴りが不可欠である。その綴りの動きの時間で、レーシャはロシア語で語る。その時間はレーシャの側の「溜め」に変わり、ロシア語で喋っていることが、いわば彼女の「呪文」になる。音楽の展開に合わせて反撃するレーシャ、……というように、静乃の攻撃からレーシャの反転攻勢への転回が、いろんな要素を効果的に重ねて描いているから、おお、となったところだった。全体としてはすごくムラのある作品で、たとえばロシア編の綴りはかなり間抜けな感じがしたが(笑ったけど)、この回このシーンは冴えていた。

7人のバックダンサー「ラブライブ!」2期第4話

「練習は嘘をつかない」、その練習ににこが来ない。あとを追うが、追いかけっこの末、巻かれる。この追いかけっこ、走っている感じがあまりなく、不満(1期9話と並べて見てみてください)。さておき8人はにこの妹と遭遇。マンションのエントランスという微妙な場所で、にこ=アイドル、μ's=バックダンサーという矢澤家の設定が明らかになる。絵里はキレ気味に電話をかけてにこに説明を求める。真姫も海未も怒っている。ここからお話の中心は、にこが練習に来なかった問題から、矢澤家におけるμ'sの設定の件にすり替わっていく。

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にこが練習に来なかったのは、「保護者の出張中、妹たちの面倒を見なければならない」という正当な理由による。穂乃果は「ちゃんと言ってくれればいいのに」と納得顔で、当初の問題はこれで解決だが、すぐに海未がそれよりどうして私たちがバックダンサーということになっているんですか?」、絵里も「そうね、むしろ問題はそっちよ」と、話をバックダンサーの件に変えてしまう。よほどそのことが気に入らないようだ。/虎太郎に「バックダンサー」と指差されながら「アハハ、こんにちは……」と返すことりが良い。

 さて、「にこ=アイドル、μ's=バックダンサー」の設定を信じているらしき矢澤家に対する8人。花陽「どうしてこんなに信じちゃってるんだろう」、海未「μ'sの写真や動画を見れば、私たちがバックダンサーでないことぐらい、すぐにわかるはずなのに」。なるほど、μ'sの本当の姿を見れば、「私たち」がバックダンサーではなくアイドルだとわかるはずだ、と。これを受けてことりは、「ねえ、虎太郎くん、お姉ちゃんが歌ってるとことか見たことある?」と尋ねる。虎太郎は「あれー」とポスターを指さす。そこには穂乃果とにこの顔が入れ替えられた合成ポスターが貼られていた。このシーンに注目する。

 このシーンで「合成」されているポスターは、作中で既に「正しい」バージョンが明らかにされている。冒頭の予選結果発表のシーンで、μ'sの公式写真として映されていたものだ。大会サイトに掲載されているくらいだから、この時点の彼女たちにとっては、最もスタンダードな一枚ということになるだろう。にこはそういう写真を改造し、家族に騙っていたわけだ。さてこの写真、メンバーは大げさに「合成」と言ってはいたが、ちゃんと見てみると、穂乃果とにこの顔が入れ替えられているだけで、その他の7人には特に改造はない(絵里と入れ替わっている写真は、髪の処理に少し手間がかかっている。しかし9人が写っているものではない)。実は元の写真からそんなに変わっていない。穂乃果とにこ以外の7人にとっては、海未が言うところの「μ'sの写真」そのままである。虎太郎はそういう写真を見て「にこ=アイドル、他8人=バックダンサー」設定を信じている。このことから次のように展開する。虎太郎は、正しいμ'sの写真を見たら、「穂乃果=アイドル、他8人=バックダンサー」と考えるのではないか? もっと一般的に言ってしまえば、μ'sというグループは、穂乃果がただ一人のアイドルであり、他の8人はバックダンサーのようなものだと認識されうるのではないか? 

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冒頭のシーンで「正解」バージョンをきちんと明かしている。にこ・穂乃果以外の7人に変更はない。/虎太郎はこの写真を見て「にこ=アイドル、μ's=バックダンサー」と考えていた。それなら、「公式」の写真は、「穂乃果=アイドル、他8人=バックダンサー」と受け取れてしまう。というか、この作品って、ここまでそんな感じだったではないか?

 にこの「合成」と虎太郎の言葉は、穂乃果以外の7人に、厳しい現実を突きつけることになった。7人にとっては公式ママの写真でバックダンサー扱いされているのだから事は深刻である。説明を求められたにこは、「私の家で私がどう言おうが、勝手でしょ」と言った。その通り……だが問題は既に矢澤家の内部に留まるものではなくなっている。一般に公開されている写真を見てバックダンサーと言われてしまったのだから、7人は怒る。メンバーたちはこの問題に妙に執着するが、いちメンバーの家庭内設定の問題に執着すること自体が、かえって彼女たちの現実を思わせてしまう。7人にとっては、バックダンサー扱いは、嘘ではなく現実の問題なのだ。にこはポスターを「合成」し、穂乃果と入れ替わって「アイドル」を自称することで、μ'sの現実=1対8の構造を顕在化させてしまった。それがメンバーにバレた。この際どい事態を前にして、本人は説明を拒む。

 この後、にこは屋上のステージで、妹たちに設定の終了を宣言する。「これからは、ここにいるμ'sのメンバーとアイドルをやっていくの」、すると妹と弟は「でも、みなさんは、アイドルを目指している」「バックダンサー」と、矢澤家設定の認識で返す。これに対して、にこそう思ってた……けど違ったの」。今まで一緒に活動してきた8人を「バックダンサーだと思っていた」と言ってしまうのは、当然引っかかるところ。ここを合成ポスターのシーンと同じように読み替えよう。このときにこが「そう思っていた」と言ったのは、このグループに、メンバーがバックダンサーと認識されうる関係性があること、つまり1対8の構造そのものであり、現実では穂乃果以外が引き立て役になってしまっていたことだ。バックダンサーとは自分のことなのである。「けど違ったの」。しかし、それは違った。「この9人でいられるときが、いちばん輝けるの。ひとりでいるときよりも、ずっと、ずっと」。ここでにこの声には、アイドルの側の声、1対8の「1」の声が重なっている。なぜなら、いま彼女は設定どおり、ファンの前でアイドルとして語っているのだから。「いまの私の夢は、宇宙No.1アイドルにこちゃんとして、宇宙No.1ユニット、μ'sといっしょに、より輝いていくこと」。かくして設定は変更され、現状は塗り替えられる。矢澤にこは、「にこ=アイドル、μ's=バックダンサー」の設定を変更することで、「穂乃果=アイドル、その他=バックダンサー」という、1対8の現実を塗り替えているのである。

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屋上ライブの前のシーンでは、意味ありげな人形配置のモグラ叩きゲームや、虚ろな表情のにこなど、新たな展開を予感させるものが映るが、お話の上では、にこは設定変更を決意して学校に行ったわけではない。屋上ライブは、穂乃果の思いつきで(すごい思いつきだ)、メンバーが勝手に衣装やステージを用意した、突発的な出来事である。/矢澤家でにこが「嘘をついておりました」と謝ったところ。にこは「いやだなあ、みんな怖い顔して」と言っていたが、「みんな」と穂乃果の表情は違う。バックダンサー扱いが現実の問題だった人たちと、そうでない人の顔。

 にこが歌い始める前、8人はダッシュでステージから捌けていく。なぜか? 「にこ=アイドル、8人=バックダンサー」の設定の「最後」であるなら、彼女たちはにこのバックダンサーとして踊り、矢澤家の設定を演じてやるべきだったのではないか? しかしそれでは1対8の構造を塗り替えることができない。あのポスターの雑な合成が示したように、にこの設定は、穂乃果と8人のバックダンサーという現実に乗っかったものでしかなかった。そんな嘘をついている限り、にこの現実はいつまでもバックダンサーのままである。彼女自身がμ'sのアイドルになるために、にこは自ら偽りのスーパーアイドルの座から降り、同時に現実のバックダンサーを消さなければならない。この関係性そのものを上書きしなければならない。8人が退場し、「1」は「1」として歌う。この2つの動きが合わさったとき、1対8の関係は崩れた。2期4話は、にこの嘘を壊すことで、それが依拠していた現実も崩した。彼女は「1」から後退したのではない。7人のバックダンサーたちとともに、9人のアイドルになったのだ。


(余談)矢澤家から追い出されたあと、8人はにこの「家では元からそういうことになってるの」発言の真意を考える。ここで希が「たぶん、元からスーパーアイドルだったってことやろな」以下自説を披露し、真姫が「ありそうな話ね」とコメントする(鋭い!)。希お得意の「ありそうな話」の創作は、2期8話では語り手自身の存在を肥大させ、彼女は自爆することになる。