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早い遅さの作り方「ラブライブ!」第8話(1)

 第8話、会長加入。いや、8話まで引っ張っておいて、結局穂乃果がツンデレを攻略するいつものパターンではないか!……こう思ったひとは、高坂穂乃果のこれまでの仕事を過大評価している。実績を振り返ってみると、イエスマンのことりは置いておくとして、海未・真姫・花陽には断られ、凛とにこには声すらかけていない。穂乃果が「μ'sに入ってください!」と正面突破でスカウトして成功したのは、実は今回が初めてである。今回、会長は確実に「落ちる」ように見え、だからこそ穂乃果は自ら手を差し伸べたわけだが、しかし会長は、これまでアイドル活動には一貫してネガティブな人物だったはずだ。だから絵里はこの1話で完全に心変わりしたようにも見える。

 とはいえ、絵里が心変わりすること自体は、全くもって意外なことではない。絵里が加入する「結果」は、OPを見れば誰でもわかるからだ。そういうお話だからそうなるに決まっているのである。これが物語の強制力であり、第1話で書いたように、この力に屈した映像は、ただお話を説明するだけの総集編に堕ちる。だが第8話はそうではない。第8話は、これまで100%ネガティブだった絵里の加入を、物語的な要請ゆえの”唐突さ”を何重にも回避しながら映しとっている。見ていくのは、副会長との直接対決と、教室でメンバーが勢揃いするシーンである。

 まず廊下にて、副会長との直接対決シーン。穂乃果に「廃校をなんとか阻止したいと思う気持ちは、生徒会長にも負けません!」と言われてしまった絵里は、無言で屋上を立ち去る。始業前の校舎をひとり歩き、わざとらしく立ち止まったところで、副会長が声をかけて戦闘開始。

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副会長は屋上へ続く廊下のヨコからインしてくる。俯瞰気味のカットで、絵里とはナナメの位置関係であることが示される。まるで直前の穂乃果とのやりとりを知っているかのような(覗いていたに違いない)副会長の攻撃:「エリチは本当は何がしたいんやろうって」「一緒にいると、わかるんよ」で、次のカット。

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副会長「いつも何かを我慢しているようで、全然自分のことは考えてなくて」。エセ関西弁安定だった副会長が、作中ではじめて感情的に声を荒げる。副会長の表情が気になるところだが、しかしカメラは対峙した絵里を捉えて切り替わらない。感情的な副会長の表情は、少しのあいだ保留され、ちょっとしたサスペンス状態に置かれる(1)。

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サスペンドされていた副会長の表情は、次のカットですぐ明かされる。副会長「学校を存続させようっていうのも、生徒会長としての義務感やろ!?」。このカットは対決シーンで唯一両者の顔が見えるカットであり、ナナメの構図もあって印象的である。話を打ち切って立ち去ろうとする絵里に対して、副会長が畳み掛けてそれを阻止しているのだが、ここで副会長が一歩踏み出したことで、ふたりの位置関係が直線上で向きあうかたちになり、絵里はこの本音バトルに参加せざるを得ない状況に追い込まれる。副会長「エリチの本当にやりたいことは?」

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この位置関係の変更は見事。先とは逆にアオリ気味に捉えることで、画面上の立ち位置・大小を反転させ、副会長に屋上を背負わせたうえで、ふたりを直線上に対峙させている。ここで気になるのはもちろん絵里の回答だが、聞こえてくるのは屋上=光源の穂乃果たちの充実した練習声。これが燃料となって、絵里が切れる。「なんとかしなくちゃいけないんだからしょうがないじゃない!」。今度は絵里のターン。「私だって、好きな事だけやって、それだけでなんとかなるんだったらそうしたいわよ!」。だがまだ副会長の問いには答えていない。今度は脚本のレベルで、絵里の回答がサスペンドされる(2)。ここでカットが切り替わり、カメラは副会長を捉える。

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少しの間のあと、これまで余裕っぽかった副会長が、何かを見て驚いた表情になる。副会長は何に驚いたのか。また映像レベルでのサスペンド(3)。

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絵里の涙。解答は即座に示された。ここで先の問いへの答えである(とは必ずしも言えないのだが、ここでは仮にそうしておく)核心のセリフ「いまさらアイドルを始めようなんて、私が言えると思う?」が語られ、絵里が教室に走り去ってシーン終了。

 このように、副会長との対決シーンでは、(1)劇中ではじめて声を荒げた副会長の表情、(2)「本当にやりたいことは?」という問いに対する絵里の回答、(3)驚きの表情を見せた副会長が見たもの、というように、映像レベルと脚本レベルの両方で、視聴者をちょっとだけサスペンドし、即座に解消するサイクルが連続する。このことが、第8話の映像から、冒頭にあげた「物語的要請ゆえの唐突さ」を回避させている。

 物語上、このシーンは、かなり唐突な展開が連続している。始業前の朝っぱらから、いきなり「ずっと思ってたことがある」とか語りはじめ、めったなことでは動じないはずの副会長が声を荒げ、「本当にやりたいことは?」のやりとりの末、絵里は泣くわ叫ぶわの大騒ぎ。なんだか急に精神が不安定になったかのようにも見えるのだが、それも当然、朝っぱらから副会長と激しいやり取りになり、絵里が激昂して涙を流しながら核心的なセリフを喋ることは、お話としてそう決まっているわけで、いくら唐突であろうと、そういうお話なのだから、そうなるに決まっているのだ。

 そこで呼び出されるのが、出来事を直接描かず、その反応から見せるやり方である。映像をキャラクターの反応から見せていくことで、出来事自体をちょっとしたサスペンス要素として宙吊りにし、映像が呼び起こす効果を「どうしてそうなったのか」から「何が起こったのか」に変容させる。そして即座に解答=出来事そのものを明かし、「サスペンス→解消」の効果サイクルを連続させることで、事態の唐突さを上書きしてしまうわけだ。副会長が声を荒げる瞬間、または絵里が涙を浮かべる決定的瞬間は描かず、この唐突な事態に戸惑う反応から映しとる。出来事自体の唐突さをサスペンスの解消というかたちにすり替えることで、このシーンは、遅い変化であるはずの「ツンからデレへの180度変心」を、唐突さを回避しつつ短時間で導き出す、いわば「早い遅さ」を作り出しているのだ。

 この「早い遅さ」は、次の教室のシーンでもあらわれる。(続く
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