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早い遅さの作り方「ラブライブ!」第8話(2)

前記事から続く)
 さて教室のシーン。「いまさらアイドルを始めようなんて、私が言えると思う?」を捨て台詞に廊下から走り去った絵里は、無人の教室に一人たそがれる。ここから映像は1stのPVをなぞるように進むが、これはただのファンサービスなので別にどうでもよい。もしPVを持ち出すなら、たんに両者が同じ(似ている)ところに喜ぶのではなく、たとえば絵里が見つめる先が「屋上=メンバーの場所」から「窓に反射した自分」に変わったことがどんな効果を生んでいるのか、とかを語るべきだがここでは措いておく。とにかく絵里はひとり教室にいる。

 ここの止め画と無音の演出は、この作品にしては例外的なほど「遅い」時間を作り出している。実際それほど長い「間」ではないのだが、めまぐるしく賑やかに展開するこの作品では印象的なほどだ。おそらく作中ではかなり長い時間が流れたのだろう。屋上にいた穂乃果たちが、希から事情を聞き、着替えて全員で教室にやってくるくらいの時間が。絵里はあまりに心中複雑で、考えに耽る彼女には、穂乃果たちが教室に入ってきた物音などまったく耳に入らなかったのだ、たぶん。で、結論に達したらしき絵里のつぶやき:「私のやりたいこと……そんなもの」。そこに手が差し伸べられる。

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 このカットは元ネタPVと比較しても絶妙な構図(特に手の角度と指の開き具合!)で素晴らしい。もちろんここでは「この手は誰の手なのか?」という疑問がちょっとだけサスペンドされ、その答えを次のカットですぐには明かさず、加えて絵里の振り向きをストップモーションにすることが、ほんの数秒の映像ながら、かなり長い「焦らし」の効果を生んでいる。まさに絵里が「落ちる」にふさわしい「早い遅さ」が作り出されたわけだ。そうして絵里が振り返ると、そこには手を差し伸べた穂乃果とメンバーがいて、穂乃果の「μ'sに入ってください!」発言。穂乃果の手を取り立ち上がる絵里。どさくさに紛れて(?)副会長も加入を宣言して、ついにμ'sは9人になったのでした、めでたしめでたし。

 ……で片付かないのが、この作品のいいところだ。これまで見てきた「早い遅さ」の作り方、決定的な変化を直接描かず、その反応から見せるやり方は、第8話全体に拡張されていると見えるのである。結論から言ってしまおう。「絵里が自分の本当にやりたいことに気づいた」という、第8話のメインにも思える「変心」は、見せかけである。第8話は、唐突さを覆い隠すために、ある決定的な変化それ自体ではなく、それに対する反応を描く。絵里の変心は、出来事ではなく反応のほうなのだ。では隠されている出来事とは何か。主人公・高坂穂乃果の変心である。

 どういうことか。ここでいま一度絵里がμ'sに加入した状況を思い出してみよう。自ら手勢を率いて教室に乗り込んできた穂乃果。不気味とも言える笑顔と無音。教室の端で取り囲まれた絵里。穂乃果は手を差し伸べる。もう逃げ場はない。絵里がμ'sに加入したのは、希が精神攻撃により絵里を参らせ、そこに穂乃果たちが物理的なダメ押しを仕掛けたからであり、直接的には「穂乃果が(あの状況で)手を差し伸べたから」にすぎない。「絵里は本当にアイドルをやりたいと思っていたのか?」という疑問は検討に値するが、ここでは希の言葉を引用するにとどめておこう。「特に理由なんか必要ない、やりたいからやってみる。本当にやりたいことって、そんな感じで始まるんやない?」。絵里はなぜ穂乃果の手をとったのか? 特に理由なんかない。差し伸べられた手をとっただけだ。

 こうして視点は穂乃果サイドに反転する。穂乃果は言う、「一緒にμ'sで歌ってほしいです、スクールアイドルとして!」。これ以上無い、真正面からのスカウトだ。しかし彼女はそんなことを思っていたか?

 穂乃果が自ら手勢を率いてスカウトにやってきた理由は、ここでは三重にはぐらかされつつ説明されている。一、まず穂乃果は、なぜ教室に現れたのか自分からは語らない。ここでその役割を演じるのは海未のセリフ「さっき希先輩から聞きました」だ。二、海未は希から何を聞いたのかは語らない。今度はにこが「やりたいなら素直に言いなさいよ」と受ける。三、よって私たちは、希がメンバーに漏らしたのは「絵里がアイドルをやりたいと思っていたこと」だと推測するが、実は絵里は「アイドルをやりたい」とは一言も言っていないのである。絵里が涙を浮かべて語った言葉は、「いまさらアイドルを始めようなんて、私が言えると思う?」だ。これは解釈が必要な発言である。つまり穂乃果の手は、希が絵里の言葉を「アイドルやりたい宣言」として解釈し、伝言ゲームのように不確かに伝えられた結果として差し伸べられたのだ。「一緒にμ'sで歌ってほしいです!」なんて嘘だ。穂乃果は自分の意志や希望ではなく、希の不確かなソースにそそのかされて、ただ衝動的に行動したのだ。

 穂乃果は希のリークを受けて衝動的な突発行動を起こしたのであり、積極的な理由で絵里を誘ったのではなかった。そもそも穂乃果には、絵里をメンバーに加えようという考えは、直前まで全くなかったではないか。屋上での練習シーンでは、絵里をあくまで指導役として扱っているし、指導役に迎えることを提案したのも、海未であって穂乃果ではない。第8話に至るまで反目しあっていたアイドル研究部員と生徒会長に、和解の兆候はぜんぜんなかった。そんな彼女が、急に満面の笑みを浮かべて手を差し伸べる。第8話の映像演出が唐突さを覆い隠そうとしていたのは、絵里ではなく、穂乃果の変心のほうなのだ。

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絵里を指導役に迎えることが却下される流れの中で、穂乃果は突如「私はいいと思うけどなあ」と不規則発言し、物語を一気に動かしていく。

 第1話でも、穂乃果がアイドル活動を始める決断を下す決定的な瞬間は映されず、彼女が踊る姿を見た海未とことりの反応が描かれていた。第1話の記事では「穂乃果の躁鬱サイクル」が映像の駆動原理となっていることを指摘したが、第8話でも同じことがいえる。「ラブライブ!」という作品は、効果的な演出によって穂乃果の突発行動を誤魔化しつつ、まさにその突発行動を駆動原理にすることで物語的な強制力に抗っている。変心、不規則発言、あるいは突発行動、「特に理由なんか必要ない、やりたいからやってみる」。希の言葉は、高坂穂乃果の行動原理そのものであり、すなわち「ラブライブ!」という作品の駆動原理でもあるのだ。

→・聖域のアマチュアイズム「ラブライブ!」第9話
←・数字とアイドル(部)活動「ラブライブ!」第7話
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