なめらかな断絶を踊る「ラブライブ!」第1話

 第1話は何度見ても面白い。特にライブパートへの導入は鮮やかだ。生徒会長にアイドル部設立の申請を却下され、当の会長含む脇役たちが「どうすればいいの?」と途方に暮れる中で、主人公たる穂乃果は自ら歌い出すことで作品を駆動する(前記事参照)。この「どうすればいいの?」という芝居がかったセリフから、映像は虚構レベルを上げていく。穂乃果の落下=物理現象の不自然さに始まり、ノリ良く切り替わる3つの信号、ギリギリを通過していく3台の車、突然現れる海未とことり、彼女たち3人の完璧なダンス。ミュージカル的な、虚構レベルのなめらかな遷移が心地いい。

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ライブパートの車は「ラブライブナンバー」。虚構レベルは高い。

 虚構レベルの変更は、映像に断絶を見せる。そうすると「どこからがライブパートだったのか?」という疑問が湧いてくる。「このライブパートは編集された映像ではないか(時間軸が連続していないのではないか)?」とか、「第1話全体が虚構内虚構なのではないか?」とか。しかし映像にそれ=時間の断絶を示す決定的な要素はない。むしろ第1話の映像は、ナレーションを仕掛けることで、ライブパートの連続性を強調しているように見える。

 第1話は、穂乃果が突然歌い出し、階段上から身投げするところから始まる。だが跳躍した穂乃果の体は落下しない。最高到達点で静止し、時間軸は巻き戻される。ここでナレーションが挿入される。抜き出してみよう。

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これが私、高坂穂乃果、高校2年。いま、私の通う音ノ木坂学院が大ピンチなの。それは……昨日突然、理事長によって伝えられた、学校廃校の知らせがきっかけだった。」

 語り手は高坂穂乃果を名乗り、ざっと物語の背景を説明する。曰く「昨日突然、理事長から廃校が伝えられ、学校が大ピンチである」と。なぜ「今朝」でも「あの時」でもなく「昨日」なのか? ここで語り手は、彼女にとっての「現在」が、映像の「翌日」であることを明かしている。第1話の作中時間は2日間だ。廃校を知り、夜自宅でアルバムを眺めるのが1日目。A-RISEを見て、スクールアイドルをやってみようと思い立ち、会長に却下されるのが2日目。1日目の「廃校のお知らせ」が「昨日」ということは、語り手であるところの高坂穂乃果にとっては、2日目が「現在」になる。では語り手は2日目のどの時点から語っているのか?

 語り手が次に現れるのが、Aパートの最後、A-RISEを見た穂乃果がスクールアイドルを思い立つシーン:「この時、私の中で、最高のアイデアがひらめいた!」。続くBパートにナレーションはない。ではBパートが語り手の「リアルタイム」なのか? これは違う。冒頭で、ライブパートの映像を指して「これが私」と言っているのだから、ライブパートは語り手にとっては「過去」。語り手は高坂穂乃果を名乗っていて、外部に立つナレーターではない。2日目にいる語り手から見て「過去」ということは、ライブパートはそのまま同日=2日目の出来事であったとするしかない。

 一応、想像の余地はある。階段上から跳躍し静止したところで「これが私」と言っているのだから、その後は連続した時間かどうか定かではない。階段の手すりに飛び乗るカットと、路上に飛び降りるカットの間には、時間的な断絶があるのかもしれない。よく見てみると、この階段はものすごく長いので、穂乃果がワープしている=時間的な断絶があるかのようにも見える。とはいえこの作品では穂乃果の移動は徹底して省略されるのだし、そんな想像にはあまり意味が無い。重要なのは、映像は連続しているが、虚構レベルは明らかに断絶し、にもかかわらず語りの声が強引に連続性を回復させている、ということだ。高坂穂乃果は、嘘かホントかどっちつかずの、なめらかに断絶した時空間を踊っているのだ。

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最後、こちらに向かって「やるったらやる!」と宣言した穂乃果には、何か別格の力強さを感じる。この穂乃果こそ、冒頭で「これが私」と語った、あの声の主に見える。

 ライブパートを踊り終えた穂乃果は、カメラに向かってこう宣言する。「私、やっぱりやる。やるったらやる!」。作中の穂乃果が初めて作品の外側を意識したとき、登場人物は語り手に追いつき、その声は語りの声と重複する。踊る穂乃果は映像の虚構レベルを上昇させ、虚構レベルを上げた映像が穂乃果自身を語り手のレベルに引き上げる。映像を自ら駆動する主人公と、主人公のレベルを遷移させる映像。その橋渡しをする歌と踊り=アイドル活動。そこに何が映っているのか。その映像は嘘か真か。その声は誰の声か。このなめらかな浮遊感と、断絶の緊張感。「ラブライブ!」の面白さは、たぶんこのへんにある。

(参考)ラブライブ!の京極尚彦監督コンテ演出について考える - WebLab.ota
時空間の歪みについての指摘がある。

(→)三重開封「ラブライブ!」第2話(1)
(←)「ラブライブ!」第1話:高坂穂乃果の躁鬱分解
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