三重開封「ラブライブ!」第2話(1)

 第2話でも、終盤に、映像の連続性を疑わせる「超展開」がある。作曲の依頼を断り続ける真姫に対して、三顧の礼のしつこさで頼み込む穂乃果:「毎日、朝と夕方に階段でトレーニングしてるから、よかったら遊びに来てよ」。神社を訪ねた真姫が出会うのは、真剣に練習に打ち込む穂乃果たちの姿と、希の誘導:「恥ずかしいならこっそりという手もあると思うんや」。結果、次のシーンで、穂乃果の家には、「μ's」と書かれた宛名のないCDが届くことになる。

 しかしこの2つのシーンの間はかなり飛躍しているようにも見える。引っかかると思しきは以下の2点。まず(1)真姫のCDが家のポストに投函されていたこと。その理由は? 宛名がないということは、わざわざ自分で届けたのか? 下駄箱にでも放り込んでおいたほうが整合性があったのではないか? 次に(2)作曲・収録の過程がすっぽり抜け落ちていること。真姫はいつ作曲したのか? シーンの間の一晩で? それって天才すぎないか? この過程はなぜ省略されたのか?

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CDは郵便物とともに届く。「宛名がないんだ。μ'sって書いてあるけど?」


(1)CDという(開封すべき)手紙

 穂乃果宅に届く、「μ's」と書かれた宛名のないCD。このCDには真姫の仮歌が収録されているが、さて仮歌を収録するためには歌詞が必要であり、「μ's」と書くためにはその名前が必要だ。これらはどのようにしてもたらされたか?

 まず歌詞。1日目の夜、穂乃果の部屋での会議にて、作詞を海未が担当し、作曲は「一年生のすごく歌の上手い子」に依頼すべく「明日聞いてみる」ことが決まる。翌日、穂乃果は真姫を屋上に連れ出し、説得を試みるものの、「お断りします」で失敗。手にした紙を見つめながら、「せっかく海未ちゃんがいい歌詞作ったのに」とつぶやく。この紙が歌詞だ。海未は一晩で作詞をやってのけたのだ(もしかしたら、未だに書き続けていたポエムのストックだったのかもしれない)。グループ名決定シーン(後述)のあと、穂乃果は音楽室で2度目(1話から数えると3度目)の説得を試み、強引ながら真姫に歌詞を手渡すことに成功する。海未の歌詞は「海未→穂乃果→真姫」と手紙のようにリレーされて、真姫の手に届く。

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歌詞の紙片は手紙のように手渡しでリレーされる。海未が穂乃果に手渡す映像はないが、それを取り戻そうとする動き(左)が、逆に手紙が受け渡されたことを代替している。どちらのシーンでも紙は折りたたまれたまま。

 次に「μ's」というグループ名。Aパート、穂乃果たちはグループの名前を決めようとするが、なかなか妙案が思い浮かばない。そこで穂乃果は、全校生徒に丸投げする形で、グループ名の投票箱を設置する。Bパートで投票箱を覗いてみると、「あったよーーー1枚!」。その1枚、「μ's」と書かれた投票用紙によって、3人はグループの名前を得る。真姫が「仮歌を収録した『μ's』と書かれたCD」を作る材料となる「歌詞」と「グループ名」は、どちらも「紙」のかたちで届けられたものなのだ。

 ポイントは、両者の扱いの差にある。グループ名決定のシーンを見ると、穂乃果が投票用紙を開く動作がやたら丁寧に描写されていることに気づく。重要なのは、投票用紙が即座に開封され、書かれた内容「μ's」もすぐに明かされているということだ。この映像が「紙」という物体と「開封」という動作を結びつける。グループ名の投票用紙はすぐに開封された。では歌詞の紙片はどうだったか?

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投票用紙は即座に開封される。開封する穂乃果の動きは丁寧に描写され、内容もすぐに明かされる。この道具と動作の繋がりが、逆に歌詞の「未開封」を照射する。

 では歌詞の紙片は? すぐに開封されたグループ名の投票用紙に対して、歌詞の紙片は、受け渡されても折りたたまれたまま開封されない。中身についても、「いい歌詞」というぼんやりとした言い方でごまかされる。具体的に何が書かれているのかは視聴者には明かされず、内容不明のまま真姫の手に渡る。これは開封の動作と内容をともに映像として映しとった投票用紙とは対照的に見える。歌詞の紙片は未開封のまま保留され、真姫の創作の「材料」となる。真姫は未開封の材料を加工し、CDを作る。

 真姫のCDは、歌詞の紙片から「未開封」という性質が引き継がれていた。だからこそ、真姫のCDは、手紙のかたちで届けられ、郵便物とともに受け取られる必要があったのだ。開封されなかった「歌詞の紙片」は、「仮歌のCD」に姿を変え、再び穂乃果の手に渡った。それは手渡しのリレーではなく、ポストに投函されて届いた。ここで郵便物とCDが接近し入り混じる。妹が郵便物とCDを同時に手にとったことで、CDには郵便物の「開封されるべきもの」という性質が乗り移り、さらに妹の台詞:「宛名がないんだ。μ'sって書いてあるけど?」が、「宛名」(あるいは「差出人名」)と「μ's」を結びつける。これは「μ's」というグループ名が初めて他称され、「名前」として効力を持った瞬間でもある。妹は「宛名がない」と言ったが、まさにそう言及することで、「μ's」こそ「名前」になったのだ。「歌詞の紙片」は、「『μ's』と書かれた宛名のないCD」を経て、「μ'sに/から届いた開封されるべき手紙」として完成した

 屋上での「開封の儀」が、細かいカット割りで印象的に描かれているのは、このCDが「仮歌のCD」であると同時に、未開封のままだった「歌詞の紙片」の期待も保ち続けていたからである。CDを再生=開封した瞬間に、保留されていた「歌詞の紙片」も開封され、その内容は歌として明かされる。冒頭に挙げた一点、(1)CDが家のポストに投函されたことが、仮歌のCDを「作詞と作曲の二重の手紙」に変性させ、「開封の儀」のシーンに多重性を醸させていたわけだが、さてここでもう一点、(2)作曲・収録の過程を省略したことで、その多重性は、さらにもう一段階引き上げられる。

続く

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