三重開封「ラブライブ!」第2話(2)

前回の続き)

(2)時間の混濁

 仮歌を作曲・収録する過程を省略する効果は2つある。ひとつは、真姫の歌声そのものを「未開封」にすること前の記事で書いたように、仮歌のCDは、作詞の紙片が未開封のままにされたことで、作詞と作曲の二重の手紙として開封されたのだった。CDを再生=開封した瞬間に歌詞の紙片も開封され、その内容は真姫の歌声で語られたわけだ。この真姫の歌声は、第1話では聞くことができたが、第2話ではCDを再生するまで溜められている。音楽室のシーンでも、穂乃果がやってくるのは真姫が歌い終わった直後だ。だからCDの「開封の儀」では、歌詞と曲に加えて、真姫の歌声も同時に開封されたのだ……ということもできるが、省略の効果はこれだけではない。

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真姫を説得する機会は2度あるが、歌声を聞くことはできない。

 作曲・収録の過程を省略することで、神社のシーンとCDのシーンは連続して隣り合わされる。すると、この2つのシーンの間に、時間の連続性へのちょっとした疑問が生まれてくるのである。たとえば、真姫はいつ作曲したのか? とか、シーンの間の一晩で? それって天才すぎないか? とか。このように、映像の連続性を疑わせること。これこそ、過程の省略が生んだ効果なのだ。伏線はちゃんとある。

 第2話は、アバンで生徒会に講堂の利用申請をするところから始まる。これが1日目。その夜、穂乃果の部屋にて、作曲を真姫に依頼すべくあした聞いてみようと思うんだ」とあることから、Bパートに入って真姫を説得するのは2日目。Bパートは、真姫にきっぱり断られ、さらに会長にどやされた穂乃果が、ダウナーな気分のまま投票箱を開け、グループ名を決定、気分をとり直して再び真姫のもとへ……と流れていく。映像はなめらかに連続し、一見、ここまで同日=2日目であるかのように見えるのだが、このなめらかに連続した映像は、実は台詞によってぶった切られているのである。具体的には、グループ名を決定し、穂乃果が再度真姫を訪ねようとするシーン……の前のモブの台詞。

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左が問題のカット。この後、穂乃果は真姫が音楽室にいることを教えてもらい、2度目の説得に向かうことになる。

 帰りがけのモブは言う:「屋上でいつも練習してるんだってー」。このあまりに適当な台詞。この台詞が調和を乱す。練習場所を屋上に定めたのはAパート=1日目だ。ということは、もしこのシーンが2日目の出来事だとすると、屋上で練習を始めたのが、この前日になってしまう。ところがモブの台詞は「屋上でいつも練習してるんだってー」。昨日と今日の2日間は、「いつも」とは言わない。つまりこのモブの台詞からは、グループ名決定シーンと音楽室シーンの間に、相当の時間経過があったことが読み取れてしまうのだ。しかし映像は何の問題もなく繋がっている。だから映像の時間の連続性にちょっとした疑問符がつく。

 作曲の過程を省略し、神社のシーンとCDのシーンを隣り合わせたことから生まれているのも、これと同じ効果である。神社とCDのシーンの間にどれくらいの時間が経過したのか、知るすべは全くない。だから別に真姫が一晩でやったとは限らないし、そもそもそれは大した問題ではない(「μ's」という名前が定着しているっぽいことからも、それなりに時間が経っていそうなことは想像できる)。しかし作曲の過程が抜け落ちていることが、一体いつ作曲したのか? とか、それって天才すぎないか? とか、時間の連続性にちょっとした疑問符をつける。Bパートの映像は、映像の連続性に引っかかりを覚えさせ、作中の時間を混濁させている。そしてこの混濁があるからこそ、最後、屋上での「開封の儀」と直後に真姫が映る場面で、連続性を回復する瞬間が際立つ

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屋上でCDを再生する3人(左)。歌が流れる中、場面は変わり、青空を背景に、真姫がひとり悦に入っている(右)。

 家に届けられていたCDは、屋上で3人立ち会いのもと再生される。曲が流れ、「凄い、歌になってる!」と感動していると、アイドルランキングのポップアップが出現。ランクなしから999位に変わり、「票が入った……」と、3人は驚きの表情。穂乃果が「さあ、練習しよう!」と立ち上がったところでカメラが引き、場面転換。青空を背景にして、真姫がひとり満足気な表情を浮かべている(そこどこだよ!のツッコミ待ちのようなカットだ)。曲が変わり、そのままエンディングに入る流れは滑らかだが、さてこの2つの場面はどう繋がっているのか? 鍵は場面が切り替わるところの連続した2カットにある。

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この2つは連続したカット。注目すべきは、左の梯子と、右の携帯。

 左のカット、穂乃果が「さあ、練習しよう!」と言ったところで、カメラが思い切り引く。これは場面転換への導入でもあるが、画面の右側に、屋上への入口と、そこに設置された梯子を映すための引きでもある。この梯子が次のカットで真姫がいる場所を示している=真姫は屋上の入口の上にいる。真姫が柵のない抜けた青空を背に立てたのは、屋上のさらに上にいたからだ。これでまず空間が繋がる。

 次、右のカット。真姫が手にしている携帯を見ると、画面には、μ'sが参加しているアイドルランキングが表示されている。ここでネットのランキングというギミックが活きてくる。歌詞の紙片やグループ名の投票用紙が時間をかけて配達されたのに対し、ネットの投票用紙は瞬時に届き開封される。発送と開封は同時に行われる。ということで、さっきμ'sに入った票は、真姫が入れた票だったとわかる。こうして2つの場面の時間と空間が接続される。3人が屋上でCDを再生しているとき、真姫は同じ時間に同じ場所にいた。2つの場面は、実はひとつのシーンだったのだ。第2話の映像は、最後の最後で、時間と空間の連続性を回復したのである。

 作曲と収録の過程を省略した映像は、映像の連続性を混濁させることで、それが回復する瞬間を際立たせた。その瞬間に示されたのは、「開封の儀」に、真姫も立ち会っていたという事実。この事実をもって、いま一度このシーンを見返してみる。

(また、続く
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