「あいうら」OPはなぜカニとジョブズなのか

「あいうら」は面白い。



 妙なOPである。曲も妙だが映像も妙だ。誰もがツッコみたくなる「なぜ蟹?」「なぜジョブズ?」的な疑問に対して、ここではジョブズの最後のカット:「Think Crabing」のメッセージを起点にして考えてみよう。

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 あいうらジョブズのメッセージ「Think Crabing」。もちろんアップルのキャッチコピー「Think different」が元ネタだが、この「crab」は動詞の意味で用いられているのだから、とうぜん「蟹」ではない。これは辞書を引けと言っているようなものだ。辞書を引けば道が拓ける。

「Think Crabing」。「crab」の動詞型には「不愉快にさせる」「あら探しをする」「けちをつける」とネガティヴな語彙が並んでいる。「crab」の語源が「crawl」すなわち「ひっかく」「掘り出す」(水泳のクロールのこと)だったことを考えれば、「根掘り葉掘り、枝葉末節を指摘する」みたいなニュアンスだと思っていいだろう。「Think Crabing」とは、「根掘り葉掘り、枝葉末節を指摘するように、ひねくれて考えろ」ということなのだ。喜んでそうしよう。

「crab」の項目を辞書で引けば、動詞型の意味の他に、もうひとつおいしい手がかりが手に入る。「crab」には「蟹」のほかに「野生のリンゴ(crab apple)」の意もある。曰く「(小粒で酸味の強い)野生リンゴ」。「crab」には、「蟹」「ひねくれ」「リンゴ」の3つの意味が重ね合わされていたわけだ(伊勢エビならぬ三重クラブである)。よって、「crab」→「リンゴ」→「apple」→「ジョブズ」。辞書を引いただけで、瞬時にここまで連結することができる。だが「ジョブズ」と「蟹」が繋がったところで、じゃあなんで「あいうら」に「ジョブズ」なのか? この両者をどう結ぶか。ここは意味や内容に囚われていては繋がらない。Think Crabing(筆者はここに2ヶ月かかった)。

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 このカットがヒントである。どデカく「AIURA」と映されたスクリーンの前に立つジョブズ。どうやらこれは、革新的ニューデバイス「AIURA」の発表会、ジョブズのプレゼンテーションの真っ最中なのだ。さて、アップルの製品群のネーミングには、ご存知の通り共通の接頭辞がある。その接頭辞を思い出してから、ここでこのアニメのタイトル名を声に出して叫んでみよう。「あいうら」……「iうら」

「あいうら」→「iうら」→「apple」→「リンゴ」→「crab」→「蟹」。ヒントとしての「ジョブズ」と「Think Crabing」。「あいうら」と「蟹」を繋ぐには、いくら原作を参照したって、キャラ設定を掘り返してみたって無駄である(少なくとも今のところは、と留保はつけておく)。オタク的読解を嘲笑うかのようなOPが呼び起こすのは、映像の枝葉末節を全力でひねくれて解釈する楽しみと、あらゆる潜勢力を観る者の目で覚醒させる喜び。このOPが味あわせてくれるエッセンスこそ、「あいうら」の4分間に潜む面白さであり、すなわち私たちが目覚めさせるべき「鑑賞の喜び」なのだ。

 アップルが「Think different」というキャッチコピーを掲げたとき、そこには「反抗者」「変革者」といったイメージが重ねられていた。OPがジョブズに語らせた「Think Crabing」という言葉は、視聴者を「鑑賞の喜び」に誘うヒントであるとともに、中村監督が、小さなリンゴ=蟹としての矜持を示したものだったのかもしれない。
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