夢的な3分間の驚きを数える「あいうら」第9話

 カニOPの記事で「映像の細部を覚醒させる喜びこそ『あいうら』に潜む面白さなのだ」と見得を切ってみた以上、それがどういうことなのか示さなくてはなるまい。第9話は恰好の例になる。

1.「まだ続くのか?」

aiu9-1.jpgaiu9-2.jpg

ダラっとうつ伏せに寝転んだ奏香を斜め上から捉えた印象的な1カット目(1-左)。奏香「野望は潰えましたが、夢ならあります」のセリフで、お話が前回から続いていることが明らかになる。この事実にまず軽い驚きを覚えつつ(驚き1)、その驚きを代弁する彩生のツッコミ「まだ続くのか?」。もういちど奏香と彩生のやり取りがあった後、カットが切り替わる(1-右)。切り替わった瞬間に、(1-左)が彩生ではなく歩子の視線だったことが明らかになる(驚き2)。1カット目で印象的な奏香の姿を見せ、その奏香と画面外の彩生を会話させた(しかも彩生に視聴者のツッコミを代弁させた)ことで、映像の視線と主体を同一視する錯覚を生み出したのだ。なんとも映画的なトリック。

2.「へぇー、どんな夢?」

aiu9-2.jpgaiu9-2_5.jpg

2カット目に切り替わると、歩子が発言。さっきまで喋っていた(=カメラの主体だと錯覚していた)彩生から、右に座る歩子に視聴者の視線が移る。すると自然に、私たちの視線はさらに右、奥行きのある背景ともうひとつのイスに誘導される(2-左)。意味ありげに置かれたそのイスは無人だ。何なんだあのイス……と引っ掛かりを覚えていると、アイキャッチ後のカット(2-右)で、カメラの視点がそのイスに移動している(驚き3)。画面上の視線誘導と、カメラの視線移動をシンクロさせた、これもまた映画的な仕掛け。ここで奏香の姿勢は仰向けに変わっている。

3.「じゃああるのかい?彩生ちゃんには。将来のドリームってやつが!」

aiu9-4.jpgaiu9-5.jpg

歩子のどうでもいい夢の話から、「けさ何か夢みた?」と彩生に話が振られる。彩生と奏香のやり取りの中、奏香は彩生をビシっと指さして「じゃああるのかい?彩生ちゃんには。将来のドリームってやつが!」と問う(3-右)。彩生がカメラ目線になり、そこに奏香の腕がインしてくることで、彩生を映していたこのカットが、奏香の視点だったことが示される(驚き4)。歩子の夢が挿入され、会話劇のフォーマットを忘れかけたところで、カメラが奏香視点であることを明かす奇襲。このアニメの視聴者に気を抜く暇はない。

4.「もちろん。アイドルにでもなろうかと思ってる」

aiu9-5.jpgaiu9-6.jpg

さらに驚くべきことに、その奏香視点カット(4-上左)の次のカット(4-上右)では、奏香は仰向けに寝っ転がったままなのである(驚き5)。(4-上左)の奏香の腕は、明らかにうつ伏せの姿勢から伸ばされているように見える。なんだこれは、作画(演出)ミスか? と思いきや、うつ伏せであると思ってしまった(4-上左)のほうが錯覚なのだ。どういうことか。

aiu9-3.jpgaiu9-5.jpg

奏香視点のカット(4-下右)は、歩子が爆発夢に驚いて起床したカット(4-下左)から繋がっている。下向き姿勢の歩子と奏香の視点を連続させたことで、奏香の天地の記憶を上書したわけだ(驚き6)。背景の類似も、ミスリードに一役買っている。実際に試してみれば、仰向けでも左手を奏香のように差し出すことができるとわかるはず。

5.「美鈴ちゃん、玉の輿ってどうやったら乗れるかな?」

歩子「アイドルってどうなるの?」で、エンディング。キャストに田村ゆかりの名前があることから、Cパートでアイドル的な先生にこの話を振るのか……と思いきや、奏香が先生に振るのは、ひとつ前の話題の「玉の輿」(驚き7)。意外性があるのは先生の反応ではなく奏香の振りの方。

6.「すいませんでした」

aiu9-6_5.jpgaiu9-8.jpg

先生が「知るか!」と怒鳴ると、次のカットでは奏香がびっくりして床に落ちている。このカット(6-右)、エンディング前のカット(6-左)と比べてみると、消えていた例の3つめのイスが復活している(驚き8)。無人のイスは、そのイスに座るべき人物の不在を強調する。奏香が床に落ちたカットに無人のイスを配置することで、奏香の「落ちた感」を強調し、第9話全体に「オチ」をつけた、というわけ。

 わずか4分、本編だけなら3分の間に、これだけの驚きが潜んでいる。全力で闘った試合後のような心地良い疲労感さえ覚えるこの3分という時間は、決して短いものではない。3分という超短尺だからこそ、内容が「他愛のないおしゃべり」だからこそ、映像そのもののほうに、見る側も作り手の側も、全リソースを注ぐように仕向けられる(これは「ねらわれた学園」の反省かもしれない)。「あいうら」は、内容を消したからこそ面白さを堪能できる、日常系アニメの逸品である。
関連記事