まきりんぱなへ至る途「ラブライブ!」第4話(3)

(1)(2)から続く

Sq.6 和菓子屋穂むら:花陽+μ's

 西木野邸からの帰途、花陽は通りかかった和菓子屋=高坂邸で母親に土産を買っていこうと思い立つ。これは完全に花陽が自分から起こした行動である。この気まぐれが全てを変える。穂乃果の部屋に上がっていくことになった花陽は、なんやかんやの後、再びμ'sの3人から勧誘を受ける。「でも私、向いてないですから…」と断る花陽に対して、立ち上がったことりが珍しく主体的に長台詞をぶつ:「プロのアイドルなら、私たちはすぐに失格。でも、スクールアイドルなら、やりたいって気持ちを持って、自分たちの目標を持って、やってみることはできる!」

 これまで見てきたように、凛・真姫とのシーンでは、花陽は二人に「絡まれる」側だった。しかしSq.6では、花陽は自ら扉を三度開いて中の光景を目撃する。まず(1)入店時。和菓子屋穂むらの扉を開けると、「いらっしゃいませー」と声をかけてきたのは割烹着姿の穂乃果だ。当然これはSq.5の真姫に対応する。真姫は家業である医者を継ぐ「未来」を理由にアイドル活動を拒んだ。これには花陽も「いろいろあるんだなあ…」と同情を禁じ得ない様子だったが、しかしμ'sで活動中の穂乃果はすでに家業を手伝って労働しているのである。いかにも深刻そうだった真姫に対して、穂乃果に悲壮感は全くない。というか、穂乃果は未来のことなどおそらく何も考えていない。次に(2)妹の部屋。2階に上がった花陽は、間違って妹の部屋の扉を開ける。そこで妹は必死にバストアップを図っている。この必死さを前にすると、凛がアイドルを拒否した根拠:「女の子っぽくないし、髪だってこんなに短いし」など、かなりどうでもよくなってくる。遺伝子=「過去」に決定された身体的な条件であっても、変えようとしてみることはできるのだ。髪なんて勝手に生えてくるではないか。最後に(3)ポーズを決める海未。花陽のような引っ込み思案の人間でも、やろうと思えばあれくらいできる。

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花陽は三度扉を開き、この光景を目撃する。3人が抱える問題は花陽→凛→真姫の順に示されてきたが、解決の可能性は真姫(穂乃果)→凛(妹)→花陽(海未)の順に逆走して提示され、Sq.7ではSq.1の教室に還ってくる。

 花陽が開けた扉の向こうで、まきりんぱな3人が抱えていた問題は、いとも簡単に粉砕されてしまった。家の事情も、身体的な特徴も、思い切りの弱さも、実は大した問題ではないのだ。ことりの言葉を借りれば「やりたいって気持ちを持って、自分たちの目標を持って、やってみることはできる」のである。だがこの言葉は、要するに「やりたいならやればいいじゃない」であり、これまで凛と真姫が言っていたことと大差はない。これだけで3人をμ's入りさせることができるほど事は単純ではない。なぜか。Sq.6では、花陽は自分から扉を開いて高坂邸内部の光景を目撃することになったのだが、まさに花陽が自分から行動を起こしたことによって、凛と真姫はこの光景を全く見ることができないからだ。凛と真姫の問題:「過去に決定された身体的特徴」と「家系に決定されている未来」が克服される可能性を花陽は見たが、当のふたりはそれを知らない。逆に、花陽のスペックに問題がないことを凛は知っているが花陽自身は知らず、彼女がやる気十分であることを真姫は知っているが当人は知らない。各人が抱える問題と解の知識は、互い違いにずれている。

 そして第4話の映像は、この「ずれ」を抱える3人を、μ'sの歌声によって結びつけるのである。伏線は張られている。花陽が来店したこの日に限って、穂乃果のPCは壊れている。花陽より後からやってきたことりが「穂乃果ちゃん、パソコン持ってきたよ」と呼びかけると、穂乃果「肝心なときに限って壊れちゃうんだ~」海未「それで、ありましたか、動画は?」ことり「まだ確かめてないけど、たぶんここに…」と展開し、ネットにアップされたライブ動画を、花陽も含めた4人で見る流れになる。だがこの会話はおかしい。なぜことりは「まだ確かめてない」のに、動画が「たぶんここに」アップされていると考えたのか? ことり本人が「誰が撮ってくれたのかしら…」と漏らしたように(ずいぶん暢気な感想だがこれは盗撮だ)、そもそも撮影されたこと自体が想定外であるのだから、劇中世界でいかにメジャーな”スクールアイドル動画投稿サイト”があったとしても、あのライブの動画が投稿されていることを予想することは不可能である。これはSq.4(理事長室)で理事長が絵里に動画を見せた事実を以って、ことりが理事長=母親から情報を聞いたのだと考えてみよう。自分たちのライブ映像がネットに上がっているとなれば、当人たちとしては当然それを確認したいはずだ。だが「肝心なときに限って」穂乃果のパソコンは壊れている。誰かがPCを持ってこなくてはならない。穂乃果は店番をしなくてはならない。こうして海未が部屋に一人で残る条件が整い、花陽は彼女がポーズを決める姿を見ることができるようになる。

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穂乃果の部屋→真姫の部屋→凛の部屋→花陽の部屋(順番に注意)と、劇中の音声とBGMを重ねながら展開する演出は見事。

 ことりがPCを持ってきて、穂乃果たちは初めてライブ映像を確認できた。穂乃果のPCが壊れていたことで、花陽は初見の現場に居合わせることができたのだ。盛り上がるメンバー3人と、じーっと映像を覗きこむ花陽。ここで最初に書いたことりの勧誘台詞が入るが、このとき花陽が熱心に覗きこんでいるファーストライブは、そのまま劇中映像から劇伴に移行している。ファーストライブをBGMに、その映像を見て沈む真姫、女子っぽい服を着てみる凛と、アイドルになりきったかつての自分の写真を見る花陽。真姫の部屋でも、凛の部屋でも、光を放つPCのディスプレイが映っていた。この小道具が3人のずれを統合する。確かに、高坂邸内部の光景を目撃したのは花陽だけであった。しかしまきりんぱな3人は、同時にネットにアップされたμ'sの動画を見ていたのだ(歌声と劇伴を重ねる=曖昧にすることで浮遊感を醸しつつ映像に連続性を与える手法は、第1話第2話のラストにも見られた。第2話では歌声が時間と空間を接続する役割を果たしたが、第4話では明らかに断絶した空間を映像として強引に連続させることで、逆に3人を繋ぐものが「μ'sの歌声」以外ないことが示唆されている)。3人が共有できるおそらく唯一の記憶であるμ'sの歌声が3人を結びつけ、場面は翌日へ移行する。

Sq.7 音読失敗2:まきりんぱな

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 花陽はがんばって声を出してみるが、再び音読に失敗する。その姿を心配そうに見つめる凛と真姫。Sq.1では、回想と視線でしかなかった彼女たちが、ついに同時に画面に現れた。役者は揃った。

(もう一回続く
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