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鬼の矢澤の入部試験<アイドルゲーム>「ラブライブ!」第5話

 副会長の示唆(誘導)を受けて、アイドル研究部の部室にやってきた穂乃果たち。だがにこは「お断りよ」と彼女たちの入部を拒否する。その理由は「アイドルを汚している」から。納得できない穂乃果は、「ずっと練習してきたし、歌もダンスも…!」と食い下がるが、にこ「そういうことじゃない」。どういうことか。にこは言う:「あんたたち、ちゃんとキャラ作りしてるの?」。彼女いわく「お客さんがアイドルに求めるものは、楽しい夢のような時間でしょ? だったら、それにふさわしいキャラってものがあるの」。以下にっこにっこにー。

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大事なのはパフォーマンスではくプロ意識である。にっこにっこにーに全くピンときていないここの穂乃果の表情は、全編通して彼女のベストショットの一つとして推したい。

 ここから第5話は、部室を追い出された穂乃果たちが、希からにこのアイドルへの熱い想いを明かされ(これも誘導だ)、打開策のヒントとして海未を仲間に引き入れたエピソードの回想へ……と流れていく。幼きころ、かくれんぼをしている穂乃果たち。それを見つめる幼女海未は、穂乃果と目が合いそうになると木の裏に隠れた。この動きは傘で身を隠すにこの動きと重なり、翌日、穂乃果たちは、かつて海未に対したのと同じように、にこをやや強引に押し切ってアイドル研究部に加入する。一見、穂乃果の「営業スキル」をよく示すエピソードに見える。

 だが回想のケースとにこのケースには決定的な違いがある。それは「どちらがゲームマスターか」だ。まず回想の海未。ここで穂乃果がとった行動は、考えてみるとそれほど飛躍したものではない。なぜなら、「隠れたひとを見つけること」は、かくれんぼのルールにおいて既に制度化されているからだ。かくれんぼをやっているのだから、隠れている人間を見つけることは、なんら不思議なことではない。見つけられたひとに次のオニを振るのもルールで決まっていることだ。回想のケースでは、偶然にも、海未がとった行動(隠れること)と、穂乃果たちのゲーム(かくれんぼ)のルール(隠れている人間を見つけ、次のゲームのオニにする)が合致していた。穂乃果はこのルールにうまく便乗することで、海未を仲間に引き入れた

 これに対してにこのケースでは、穂乃果たちは別にかくれんぼをしていたわけではない。にこの行動は、「見つけてもらうために隠れる」という意味ではかくれんぼだが、そうだとしてもゲームマスターは穂乃果たちではなくにこである。穂乃果は自分のルールをにこに適用したわけではなく、まさに「押し切って」いるわけでもない(穂乃果はこのことを理解しているように見える)。起こったことをありのままに受け取ってみれば、穂乃果たちがアイドル研究部に入ったのであって、にこがμ'sに入ったわけではないのだ。穂乃果たちが繰り返し「部長」と呼びかけるのは、穂乃果たちのほうがアイドル研究部のルールに従っていることを端的に示している。だからこれは海未に「オニ」の役割を振った回想と同じではない。むしろ逆だ。穂乃果がにこを取り込んだのではなく、にこが自身のゲームルールに穂乃果を取り込んだのである。

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回想の海未と現在のにこは並列して見えるが、にこは実は穂乃果たちを自分のルールに取り込んでいる。

 ではにこのゲームとは何だったのか? ここであの強烈なシーン、にっこにっこにーを参照しなければならない。この場面は、直接的に「アイドル論」のようなものが語られる、全編を通してもかなり珍しいシーンである(そのこと自体がちょっとすごい)。なのでうっかりするとにっこにっこにーの勢いに呑まれそうになるが、だがにこはいきなりこんなことを言いはじめたわけではなかった。これは直前の花陽と穂乃果のやりとりを受けたものだ。「伝説のアイドル伝説」に興奮する花陽に対しての、穂乃果のツッコミ:「花陽ちゃん、キャラ変わってない…?」(3話・4話に続いて、また花陽がきっかけ)。ここでスイッチが入った花陽に、穂乃果は全くついていけない。両者ともキャラを把握できておらず、自分たちがどう見えているか無自覚である。プロ意識が足りない!

 そんなメンバーに、にこは「キャラ作りしてるの?」と問いかける。「お客さんがアイドルに求めるものは、楽しい夢のような時間でしょ? だったら、それにふさわしいキャラってものがあるの」。無自覚に「素」の反応を見せるのではなく、客が求める「楽しい時間」にふさわしい「キャラ」を自覚的に演じること。これがにこのアイドル観であり、彼女のゲームだったのだ。にこは「<アイドル>という名のキャラ作りゲーム」のゲームマスターなのである。そこでにこは、穂乃果に言わせれば「アイドルが好きで、アイドルに憧れていて、私たちにもちょっと興味があり、ほんのちょっと何かあればうまくいきそうな気がする」アイドル研究部の部長というキャラを完璧に演じていた。騙されてはいけない。これらは全て「キャラ作り」の結果である。

 整理しよう。にこが穂乃果たちを拒んだ理由は「アイドルを汚しているから」。それはパフォーマンス云々ではなく、「キャラ作り」、つまり自覚の問題だった。そしてにこは「にっこにっこにー」の強烈なキャラを提示することで、穂乃果たちを「アイドルゲーム」に巻き込んだ。つまりこれは、「客を楽しませるのにふさわしいキャラ」を作ってこい(うまくできたら入れてやる)という、にこから穂乃果への振り=入部試験なのである。穂乃果のしたり顔は、この要求を理解した者の表情なのだ。役割を振る「オニ」の立場に注目すれば、回想の穂乃果にあたるのは実はにこで、回想海未こそ穂乃果たちだったのである。

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穂乃果はにこの「キャラ作りゲーム」を完全に理解した。ぼっちキャラを演じ続けるにこも大変そうだ。

 ではここで穂乃果が演じるべき「ふさわしいキャラ」とはどんなキャラか? 穂乃果は「押し切りキャラ」を以ってにこの要求に応える。もし第5話の穂乃果に「穂乃果らしい営業キャラ」を感じたなら、それこそまさに彼女の「キャラ作り」の上手さの証である。穂乃果は、「矢澤にこ」というキャラに対して、「高坂穂乃果」というキャラをぶつけたのだ。これを受けて、にこは穂乃果たちが入部に足ると判断し、加入を認める。ここで「アイドルっていうのは笑顔を見せるのが仕事じゃない、笑顔にさせる仕事なの」という言葉をただのアイドル論と受け取ってはつまらない。これは、キャラ作りの「ふさわしさ」を評価する基準、つまり「アイドルゲーム」の勝利条件を示した発言である。アイドルのキャラ作りの「ふさわしさ」は、それを見る者の笑顔で測られる。だからこそ、穂乃果たち「アイドル」として認めたにこは、最後に笑顔を見せたのだ。

 一度「キャラ作り」などという言葉を発した者は、その言葉を発したことも「キャラ作り」なのではないかという疑いを免れ得ない。素とキャラは二分法ではない。素とキャラの使い分けも含めて、映像に現れている部分全てが「キャラ」になってしまうのだ。「キャラ作りをしているキャラ」は、まさにこのゲームが発動するきっかけとなった「伝説のアイドル伝説」の多重構造と重なっている。花陽の意外な「キャラ」を引き出した「伝説のアイドル伝説」は、その多重構造で「キャラ作りをするキャラ」を呼び込んだのだ。息詰まる暗闘の末、思わず瞳を潤ますにこと、それに気づく穂乃果の表情からは、入部試験<アイドルゲーム>において割り振られたキャラを全力で演じきった二人の充実感と、互いを認め合う絆を感じるのである。

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ラストカットのにこの笑顔は印象的だが、その前の穂乃果も笑顔。両者とも笑顔にさせている。入部試験を経て、互いにアイドルとして認め合ったのだ。

 彼女たちは、「視聴者が求める、楽しい夢のような第5話にふさわしいキャラ」を演じきった。さて、私たちは笑顔にさせられたか?

(参考)ラブライブ! 5話考察 -小さなラブライブ!- : 愛は太陽だよ!
納得度の高い読解。この文章はリンク先に触発されて、あえて「トンデモ読み」をやってみようとした試みである。

(→)PVとしての「ラブライブ!」第6話
(→)二重否定のセンター高坂「ラブライブ!」第6話
(←)まきりんぱなへ至る途「ラブライブ!」第4話(1)
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