キョウドウライブ「ラブライブ!」2期第3話

 作品世界が一気に拡張された。なんといってもA-RISEである。これまでさんざん「トップスクールアイドル」だの「勝てない相手」だの言及されてはきたが、登場はその語られた評価のみで、実際どんなヤツラなのかはまったく描かれることがなかった。そこまで言うからには本当にすごくなければ話にならないが、ライブパート作画の3DCGの有無という技術的な条件も味方にして、そのハードルは確実に超えてきた。パフォーマンスには確かに目を惹きつけられた。しかし。穂乃果も言っていたではないか、「A-RISEのライブがすごいのは当たり前だよ」(これを作中で言わせる)! A-RISEのライブに惹きつけられるのは、話の前提にすぎない。

 ライブ会場を探すμ'sが、屋上→講堂→校庭と移動して、アキバの街に出てくる。UTXのモニターに、いつものようにA-RISEが映っている。物語世界でのトップスクールアイドルらしく、観衆の歓声を集めているA-RISE。その〈見られる者〉としての振る舞いを、海未は「堂々としています……」と解説してくれる。それに対して、「負けないぞ」とつぶやく穂乃果。モニターをじっと見つめる穂乃果のアップ×3、〈見る者〉の力強い視線。そこに横から綺羅ツバサ本人が入ってくる。

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その視界のなかに、ツバサは自分から入ってくる。カメラ=穂乃果の視線を下げて、物語内アイドルの自身の映像と入れ替わる。ここから第3話は、次に彼女がどう動くのか、何を言うのか、その期待に引っ張られていく。

 このシーンの密度は高い。ツバサの姿を捉えるために、カメラ(穂乃果POV)が下がり、画面内モニター=〈見られる者〉のA-RISEを画面外に押しやる。ツバサが「高坂さん」と呼びかける。(「もうむやみに大声は出さない」と言ったはずの)穂乃果が叫びそうになる。が、しかしツバサは穂乃果を黙らせ(!)、穂乃果の腕を取り(!!)、そのまま引っ張って走って行く(!!!)。この一連の動きが映像の主導権を穂乃果から奪う。続いて花陽がびっくりするシーン、グッと寄っていくカメラがギャグっぽいが、次のカットでツバサがこちらを向くことで、そのズームが彼女の視線の威力に見えてくる。花陽がUTXに突入する動きが、穂乃果が連れ去られたからではなく、花陽がツバサを見たからでもなく、ツバサが花陽を見たからというふうに上書きされる。Bパートに入ってA-RISEによるμ's評、彼女たちはμ'sのことを実によく見ている!「私たちも負けません!」と言った穂乃果に応じるかのように、唐突にUTXライブを提案するツバサ、即座に「やります!」と応える穂乃果。次のシーンはもうライブ当日である。ツバサの言動が展開の起点となり、映像を振り回す。その視線、その言葉、その動き、その能動性。これは1期で穂乃果が見せてきた魅力そのものではないか!1期の記事で詳述) A-RISE=綺羅ツバサは、物語内アイドル=〈見られる者〉として振る舞うだけでなく、映像を振り回す〈見る者〉として、穂乃果的な在り方も兼ね備えていたのだ。

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その眼!

 自身と似た在り方も示した綺羅ツバサに対して、いっぽう穂乃果は第3話でも徹底して能動的に振る舞っていた。彼女は「文字を読むのが苦手」なので、サイトの画像を見ることで、初めてルールを把握する。そのライブ会場について、前半部でこう提案していた:「この学校をステージにしない? ここなら緊張しなくて済むし、自分たちらしいライブができると思うんだ」。この完全に自己本位な発言。だが1期11話時点ほどの神通力は既に穂乃果にはない。にこのツッコミは「甘いわね」「画面の中で目立たないといけないから、目新しさも必要になるのよ」。〈見られる者〉として他者の視線を意識せよ、自己目的的な穂乃果とのわかりやすいコントラスト(参考:1期9話など)。さらに放送室のシーン、マイクに激突した出だしとは裏腹に、しゃべりだすと案外ちゃんとトークができる穂乃果(意外そうなメンバーの顔が面白い)。ここで放送というシチュエーションがおいしい。音声の放送には、視覚的な要素はほとんどない(もちろん全く無いとは言わない)。そんな他者の視線と無関係な状況下でも、自分から声を出す=能動的に振る舞う穂乃果の表情は、前のシーンで花陽にカメラを向けられたときよりよほど活き活きとしている(他者を意識して恥ずかしがる海未・花陽とは対照的だが、逆に〈聞かれている〉ことが想定できないから、最後は大音量で「爆発」している)。ライブ当日も、A-RISEのパフォーマンスを目の前で見たメンバーが(モニターではピンときていなかった凛でさえ)ネガティブなムードに落ち込むなか、しかし穂乃果は「こんなすごい人たちとライブができるなんて……自分たちも、思いっきりやろう!」。ライブすら、穂乃果にとっては〈見られる者〉のステージではない。自分たちとA-RISEを〈見られる者〉として比べるのではなく、「思いっきりやる」=歌って踊る〈動く〉側から、同じ舞台に上がろうとするのだ。これぞ!

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穂乃果の「見られる者」としての無自覚さ。カメラを向けられてもボケっとした表情。だが放送でしゃべっているときは、誰にも見られていない状況でも、左よりよっぽどいい表情である。

 そしてライブシーン。似た者同士ともいえる綺羅ツバサと高坂穂乃果が、同じ場所で、A-RISEとμ'sの連続したライブパフォーマンスで並べられる。似たものを近づけるから違いが際立つ。まず楽屋シーン。「今日は勝負なんだから」と言ったにこをはじめ、μ'sのメンバーとA-RISEがきっちり着替えて登場する中で、穂乃果は暢気に屋上から景色を見ていたのでまだ制服姿(ここで希が一緒なのが面白い)。緊張感のない「あ、こんにちわ」の挨拶が良い。ツバサが〈見られる〉モードに移行しても、穂乃果はまだ〈見る者〉としてある。次、ライブの見た目。両者のステージは、本当に同じ会場なのか疑問に思えるほど趣が異なる。A-RISEがセットの背景と人工的な照明を使うのに対して、μ'sはかなりオープンな空間(それを示すかのように空撮っぽいロングショットも入る)。A-RISEが歌っていたのは夕暮れの時間帯だが、そのうちに日が暮れて、μ'sのライブは夜。青い照明のような高層ビルと、都心とは思えないほどの星空が見えている。なんだか夜のほうが明るく見える。

 さらに、決定的に違うのが、ライブを見る者たち。1期では、μ'sのライブが徹底して自己目的的であり、ファンや外部からの評価が眼中にないことを強調したが、2期3話に至ってμ'sはついにラブライブ予選に出場し、まさにA-RISEと同じ舞台に上がっている。上ではその能動性を取り上げたが、ライブ自体は予選突破=他者の評価を目的にして行われているわけで、この点で両者に違いはない。ライブ中に挿入される評価の折れ線グラフも同じだ。しかし観客の現れ方は違う。μ'sのライブの直前、穂乃果が「μ'sミュージック……」と言いかけたところで、突然やってきた音ノ木坂の生徒が「穂乃果!」と呼びかけて、掛け声が中断されてしまう(!)。穂乃果はちょっと笑顔を見せるが、そのまま「さあ、行こう!」とライブに入り、生徒たちとは特に絡まないまま終わる。

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同じステージのはずだが、μ'sの方がオープンな空間に見える。だから、周囲を味方につける。

 この唐突な登場は、生徒たちがモニターの前で見るのではなく、電話やメールでメッセージをよこすのでもなく、実際に穂乃果たちの目の前に現れたことが意味を持つ。A-RISEの観客は、モニター越しに彼女たちの姿を見ていた。観客との間には明確な境界がある。いかにツバサが〈見る者〉として能動的に振る舞おうと、パフォーマンスにおいては彼女は自覚的に〈見られる者〉になる(この界面を一瞬で突破した=見せられる観客から脱して自分から動き始めたのが、1期1話の穂乃果である)。しかしμ'sを見る者は、実際に彼女たちの目の前に現れた。μ'sは一方的に〈見られる者〉の側に立つのではなく、目の前の生徒たちを〈見る〉側にも位置づけられたままパフォーマンスする。そしてこのことは生徒たちにも跳ね返り、彼女たちはただμ'sを〈見せられる〉観客ではなく、μ'sと共に動く者としてUTXの屋上に現れる。駆けつけた生徒たちは「手伝いに来たよ」と言った。ただ「見に来たよ」ではない。「手伝いに来た」、すなわち自分たちも動き、ライブに参加しようとする意志。彼女たちは勝手に、自分から、能動的にやって来た。A-RISEが画面の前に観客を集めるのに対して、μ'sは共に動く者を、その目の前に呼び寄せたのだ。

 第3話では、作中これまで〈見られる者〉でしかなかった綺羅ツバサが〈見る者〉として現れ、穂乃果と似た(あるいはそれ以上の)魅力を持つ人物として存在感をみせた。そのツバサは、ライブパートでは〈見られる者〉の側に移行し、他者の視線を惹きつけて、道行く人を観客に変える。このON/OFFの倫理が、(少なくとも第3話での)ツバサの在り方である。それに対して、穂乃果はあくまで能動的な、〈見る者〉の側からステージに上がる。しかし、だからこそ、穂乃果は観客を、ただ受動的に〈見せられる者〉にしておかない。〈見る者/見られる者〉の境界を壊し、観客を協同参加者に変える(cf.2期OP)。他者を動かし、壁のない屋上まで呼び寄せて、その場で共に光を浴びる。3話の共同ライブからは、そういう両者の違いがみえた。

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ライブ当日の楽屋。メンバー・A-RISEがきっちり着替えている中で、穂乃果は屋上から景色を見ていたのでまだ制服姿。右、μ'sがA-RISEのライブを見たように、A-RISEもμ'sのライブを見ていた(ツバサが穂乃果にUTXライブを提案したのは、ただ自分がμ'sを見るためだったのではないかとも思える)。しかしこの画面では、A-RISEよりも、音ノ木坂の一生徒のほうが、大きくて明るい。μ'sのライブに参加したからである。

(追記)書き漏らし。最初のシーンで、穂乃果とツバサが(離れた場所から)同じ画面を見ていたことは、〈見る〉動きが二人を結ぶ端的な表れなのだった。同じものを見る者は繋がる。
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